中途半端な想像力


長谷川敏彦君は、僕の弟を殺害した男です。

そんな書き出しの本を読んだ。
小説ではない。弟を保険金殺人で殺された人の書いた本だ。
殺した犯人は、3件の殺人による罪で、死刑になった。
そして、その本を書いた人は、死刑の取りやめを求めたのだという。

『いのちの食べ方』『世界を信じるためのメソッド』などの本で私の心にクリーンヒットの森達也さんが、本の中で紹介していた本だったのだ。

f0032403_2158589.jpg弟を殺した彼と、僕。

金だけが目当ての残虐な殺人の被害者となった、著者原田さんの弟。
犯人の男“長谷川君”は、自らの手がけた殺人によって死んだ弟が事故死とされ、保険金を受け取った後も、親しい友人のようにして原田さんや原田さんのお母さんを訪ね、そ知らぬ顔で事故現場を案内し、なぐさめて慕われ、金の無心もしていた。

「人は、これほどまでに誰かを憎悪できるのか」と自分でも知らなかったほどの、魂の底からの憎悪が沸き上がる、まさに“はらわたが煮えくり返る”ほどの感情を“長谷川君”にぶつける、原田さん。
事故死だと思われていた頃に生命保険の会社から原田さんたちにも払われた1400万円は、葬式などの諸費用や“長谷川君”に貸した金などでなくなった後で、返還請求が来た。
莫大な借金を背負い、家族も仕事も自分も、何もかもボロボロ。
弟を失い、人生をめちゃくちゃにした男、“長谷川君”。

そんな思いをした原田さんが、死刑制度に疑問を投げかけるようになるなんて。

私は、特に疑問を持ったこともなく「人を殺した人は死刑になるもんだ。」と思っていた。
そんな酷いことをする人間は、生きていてはいけないんだろう。
“死んでお詫び”するのが当然だろう、と。
(実際はそんな単純ではないにしても)

そうじゃないの?
その不思議さに、この本を手に取って(図書館で借りて)みたのだった。

このスーパー遅読み人間まとんが、なんと1日で全部読んでしまった。
読みやすかったのもあるが、著者・原田さんの心の動きと世間の動きを、おしまいまで早く知りたくなって。






無残に弟の命を金に換えた男を、自分の手で殺してやりたいと渇望していた原田さん。
思わずして抱え込んだ借金に追い立てられ、どうして良いかもわからない時、弁護士も行政も、誰も力にはなってくれなかった。
憎しみと恨みをぶつけたくても、逮捕された犯人に直接ぶつける事はできない。
代わりにぶつけてくれるはずの検察も、裁判と関係のない分までの悲しみを受け止めてくれるわけではない。
誰もが気の毒がってはくれても、誰も助けてはくれないという孤独感。
その頃、僕は、こんな事をイメージしていました。昭男と僕ら家族が長谷川君たちの手で崖から突き落とされたイメージです。僕らは全身傷だらけで、昭男は死んでいます。崖の上から、司法関係者やマスコミや世間の人々が、僕らを高みの見物です。彼らは、崖の上の平らで広々としたところから「痛いだろう、かわいそうに。」そう言いながら、長谷川君たちとその家族を突き落とそうとしています。
(中略)誰一人として「おーい、ひきあげてやるぞー」とは言ってくれません。代わりに、「お前のいる崖の下に、こいつらも落としてやるからなー。それで気がすむだろう」………

“長谷川君”の姉と息子は、自殺した。
崖の上の誰もが、彼らを引き上げてはくれない。

“長谷川君”が死ねば、自分たちは救われるのか?
自分が本当に望んでいる事は、そういうことなのか?

苦しみから逃れ出る道を必死に探して、原田さんは“長谷川君”との面会を望んだ。
死よりもむしろ、直接犯人と顔を合わせることによって、苦しみの淵から少しずつ這い上がれる事もあると感じた。
決して、相手を赦したからではない。生きる事によって償うこともあると感じたからだ。


f0032403_23282894.jpg世間は、原田さんを彼らのもつ「被害者像」に当てはめようとする。
犯罪被害者はみんな、彼らの思い描く「像」にはまっていなくてはならないのか?
誰もが同じように考えなくてはいけないか?

人間のすごいところって「想像力」というものを持ってるってことじゃないかなぁ、と思ったりすることがある。
想像力があるから、自分が体験した訳ではない事も学ぶ事ができて、自分の生に生かす事が出来る。戦争をしたことはなくても、戦争を体験した人の話で、戦争は良くなさそうだ、と思うことが出来る。
だから、人間は少しずつ進んでいける。

だけど、想像力を過信しすぎて、本当は大きくかけ離れている時でも、浅はかで自分勝手な想像を暴走させていることもあるのだろう。
あべこべに、「想像」に「実物」をはめ込もうとする事も。
当人たちが何事か一生懸命異議を唱えているのには耳を向けず。

本当のその人を何も知らず、知ろうともせず、
「あんなやつは死んで当然だ!」
と叫ぶだけの資格が、私たちにあるのだろうか。

自殺した“長谷川君”の姉と息子を、本当の意味で殺したのは、誰だったか。
彼を憎む気持ちと、彼を呼び捨てにすることとは違います。長谷川君のしたことを知って、呼び捨てにしてすむ程度の気持ちを抱く人を、僕は羨ましく思います。

胸の奥に、一つの、新しい(そして大切な)“穴”を穿たれたような気がした。
by ushimaton | 2007-08-23 23:40 | おすすめ!


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