人気ブログランキング | 話題のタグを見る

エスキモーになった日本人

図書館のいいところは、ぶらぶら眺めて「あ、ちょっと読んでみたいかも。」と思った本をそのまま自宅にもって帰って読めるところ(当たり前!!)

そんな『ジャケ借り』(笑)でこの前借りてきた本があった。

エスキモーになった日本人_f0032403_1045533.jpg
『エスキモーになった日本人』大島育雄著。
そんなのがおるんか…エスキモーに“なった”といっても、まぁ、エスキモーの町に“住んでる”ってことかな?

ちょっと面白そうだったので読んでみたら、かなり面白い。
本を書いている大島育雄さんは、グリーンランドの世界最北のイヌイットの村(緯度は南極の昭和基地より高い)に住んでいる。
住んでいるどころか、彼はイヌイット(エスキモー)そのものである。
職業は、猟師。生活のために猟をして生きている。

大島さんは、若い時に山岳部の遠征の下準備のために、この最北の村にしばらく滞在する。一緒に生活していたのは、冒険家の植村直己さんだった。
二人で犬ぞりを練習し、狩猟や釣りを学んだ。

植村直己さんはここでの準備を足がかりに、次なる冒険に出かけていく。一方大島さんは、冒険よりもここでの生活に強く心を惹かれ始める。
村の女性と結婚し、村に根を下ろして生きていく事を決めたのだった。
日本の仲間との北極点遠征にも同行したが、日本人遠征隊と雇われた村の人の間に立って、精神安定剤が必要なほどに消耗したという。
北極点遠征の冒険に関しては、かなり言葉少なに少々書いているだけなのだが、極地での狩猟生活についての記述が、実に生き生きとしている。ここでの生活を本当に愛しているのが伝わってくる。

おそらく、腕の未熟分を相当練習したのだろう。この本を書いた頃(移住して16年)には、誰もが彼を立派な猟師で、立派なイヌイットだと認めているに違いない。
(顔はもともとイヌイット顔らしい…笑)

エスキモーになった日本人_f0032403_10303315.jpg本には、彼らにとっての「日常」を、詳しくしっかりと書いてあった。
犬ぞり、アザラシやイッカクやセイウチやホッキョクグマの猟、食べ物や住居、長老に聞かされた様々な伝承など。

うわさに聞く「キビヤ」も、大好物なのだそうだ。
キビヤとは、アザラシの皮に鳩より小さいくらいの鳥を詰め込んで発酵させた物で、強烈な匂いがするどろどろの状態(鳥の塩辛)になったのを、羽と骨以外は脳も内臓も全て食べる。
初めて食べた時は、彼らとの友好のためだと、吐き戻そうとする自分の胃袋と戦いながら必死に飲み込んだらしいのだが、今は「うまいもの(!)を自分で作りたい」という情熱から、すっかりキビヤ作りの名人になり、村の人からも注文を受けたりしているそうだ。
す、すごい…。

書いた大島さんにそういうつもりはなかったのかもしれないが、これはとても貴重な「記録」となるのかもしれない、と思った。
大島さんという人そのものの生きる記録でもある。が、それ以上に、最北の地に暮らすイヌイットの記録。来訪者が観察したものではなく、完全にイヌイットとしての、彼ら自身の心がこもった記録だ。

きっと、彼らのこの生活も、ずっとこのままではない。
便利な道具や娯楽も次々と入ってくるだろう。若者は都会に出て行くだろう。「文明」によって、生活はおそらく変わっていくだろう。
この日常が、とてももろくてきわどい“遺産”であるかもしれないのだ。
マイナス40度の中、白熊のズボンを履いて、そりの上に横たわって眠り猟をする生活。
地球のどこかでこれが「日常」である、ひょっとしたら「日常であった」という感動的な事実を、手元に持っていたいという気がした。(買おうかな)

ところでこの本が書かれたのはかなり昔なので、今は大島さんはどうしているのだろう、とちょっと検索してみたら(ネットってすごい)、こんな記事を見つけてしまった。
去年書かれたasahi.comの記事で、北極の氷が溶け出し、村の生活がおびやかされている、というものだった。

極地の人々は、気流の関係で、他の国々が排出した化学物質によって出来たと思われるオゾンホールの下に住んでいる。
また、海獣類を食べるため、海の食物連鎖の頂点として、体に蓄積された有機水銀の量は水俣病と同じレベルに達しているという話もあるそうだ。
某環境保護団体G(笑)に狩猟生活を非難されているらしいが、非難している彼らの生活の方が、目には見えにくいだけでより多くの命の犠牲の上に成り立っているような気がするのだが…。
その上海氷が薄くなり、生活も危機に瀕しているとは。
なんとも、やりきれない。私たちの生活のツケを、関係ない人々が払っているような。


面白い本なのに、貸し出し期限過ぎてしまった(-_-;)トロいな~
by ushimaton | 2007-01-20 22:25 | おすすめ!


気が小さいのに、珍しいものは好き。 道草を喰って、たまに反芻したり。 牛歩ではありますが。


by ushimaton

S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31

☆★うしまとん★☆

 生まれと育ちは北海道

 震災被災地にお手伝い
 行っております

 コメントの返事が
 とどこおりがちですが、
 嬉しくありがたく
 読ませていただいています

 自分のブログの更新する余力がなかなかなくなってしまいましたが、日々の報告メールをこちらに出しております。
災害移動支援ボランティアRera


 
☆★リンク★☆

うしのつむじ
 牛の版画
ひまわりの家から
 手作り&子育て(休止中)
シーラチャーからこんにちは
 タイ子育て日記(移動前)
モロッコ雑貨 リヤド
 モロッコ雑貨とフェアトレード
うさぎのなみだ
 珠玉のひとこと日記
寺田本家
 千葉のおいしい造り酒屋
++明け烏++
 創作小説&日記
彷徨う語り鬼たちの杜
 創作小説
カナダ大平原のファームからの便り
 カナダの牧場
Cowbell's diary
 北海道の放牧酪農
照長土井の長岡日記
 但馬牛
北海道発 真っ赤なトマト
 激うまフルーツトマト
酪農生活100
 新サイトもあります
花のまわりをあるく歌
 手作り&子育て
打弦人生
 ハンマーダルシマー
フィールド オブ ドリームス
 関東の放牧酪農
Nayaカレンダー
 珈琲・カレー・天然酵母パン
うしカメラ
 牛写真家の牧場訪問記


◆笑いでウルオイを◆

ほぼ日刊イトイ新聞「言いまつがい」
虚構新聞

お気に入りブログ

代官山駅前日記
空を見上げて
バイオマスおやじの日々
ちょっとだけ大根
AZUのサンへーブログ。...
そらまめ~北海道便り~
世界は知らない事ばかり
なかじまや

以前の記事

2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
more...

検索

ライフログ


ナヌークの贈りもの [PR]


ともだちは海のにおい [PR]


いのちの食べかた [PR]


神さまってなに? (14歳の世渡り術) [PR]


ムーミン谷の冬 (講談社文庫 や 16-5) [PR]


どうぶつさいばん ライオンのしごと [PR]


ことりをすきになった山 [PR]


ぐるんぱのようちえん(こどものとも絵本) [PR]


HARD TO FIND Vol.2 [PR]


あなたが世界を変える日―12歳の少女が環境サミットで語った伝説のスピーチ [PR]

カテゴリ

つらつら
気になること
おすすめ!
ともだち&チビッコ
自分のこと
うち
ウシ話
旅のそら
まきばにっき
ほたてにっき
はたけにっき
みなみにっき
東日本大震災

タグ

その他のジャンル

ファン

記事ランキング

ブログジャンル

画像一覧