牛乳は有害で牛飼いは残酷か

先日、ぼちぼちやってるツイッターで、ちょっとした騒動があった。
(性質上いつもちょっとした騒動はある)


『牛乳、牛肉は、危険だから食べてはいけない。』
というようなツイート(投稿)をした人がいて、それを拾った畜産関係者たちが色めき立って抗議したり説明を試みたりしていた、ようだ。

『日本で飼われている牛たちは、劣悪な環境で薬漬けにされ、病気になっていて、早死にするかごく若いうちに殺されている。だから牛乳も牛肉もきわめて不健康で体に悪い。そして牛は可哀想。』

だいたいこんな感じのツイートであったようで。
もちろん、誰が何を言っても(ある程度は)構わないものであるが、実際に畜産業に関わっている人がこれを読めば、そりゃあ、腹も立つし反論したくもなる。
私も、思わずこのツイートを読んでしまったときは、しばし凹んだ(笑)

f0032403_2158138.jpg牛乳有害論というのは数年前からちらほらと一部でささやかれたりもする話題であり、このツイートを読む前にも、牛に関する調べ物をしようとしていて、こんなようなことを書いているウェブページに当たってちょっとがっくりした事もある。
この手の、あまりにも実際を逸脱した極端な事を書いている人は、たぶん悪い人ではないとは思うが、その考え方(?)に頑なになってしまっていて、当事者たちの言葉にも素直に耳を傾けられない場合が多い気がする。
彼らにとって、「そんなことはない」という意見をいくら当事者が言ったとしても、それは「企業と政府の癒着による隠蔽工作」に思えてしまうのだ。

もちろん、そんなふうに思っている人は、世の中のごく一部だ。
だけど、それを読んだときに、業界に関わっている私たちは、たった一部の人の話であるにもかかわらず、なんだかすごく気になって、嫌な気持ちになって、なんとか正そうと必死になる。
これって何だろう?
この歯がゆさの奥にねっとりとあるこれ、何だろう。

『有害論』を唱えている人は、だいたい、実際の畜産の現場をほとんど知らない人である。
(当たり前か、実際を知っていたら“嘘・大げさ・まぎらわしい”って知ってて書いている事になってしまうから。)
ほとんど知らない。
だけど、業界人以外の人はみんな、ほとんど知らないものである。
そんな時に、「知らないから実際見てみよう」ではなく、「牛ってこんなに不健康で可哀想なんだってよ!」という方向に行く。
何故か?

そして、それを聞いた実際の牛飼いたちは、その無知ぶりを攻撃し、説得を試み、「牛をわれわれは愛しているし、牛も健康に生きている」とわからせようとする。それは一生懸命に。
私だって、返信文を書きたくなった。
放っておきたくない。何故?

そもそもが、有害論者が「どうしたい」のか、読んでもわからない。
日本から(世界から)畜産業をなくしたいのだろうか?
そして牛乳や乳製品をなくしたいのか?
だって、「牛は長生きできずに若いうちに殺されて肉にされる。可哀想。」を解決するには、牛肉を食べるのをやめるしかない。老牛になるまで飼ったとしても肉になるのは同じだから。
だけど、唱える人々も、はっきりと何かを訴えたくて書いているのとちょっと違うような気がするのだ。

根っこには、やっぱり、「食べる人」と「育てる人」の大きな分断がある。
食べる人々が、あまりにも、それを生産するところから離れてしまっている。
だから、まったくわからないから、「こんなに危険なんだってよ!」「毒なんだってよ!」というセンセーショナルでショッキングな内容に吸い寄せられる。
牛のことだけじゃない。
農薬のこと。化学物質のこと。原子力のこと。今、ありふれていて、でも実際何でできているのかどのくらいの影響があるのかよくわかっていないものへの不安。
私だってそうだ。

そして、でも、それだけじゃない、と思った。

f0032403_21591766.jpgちょうど、以前も記事に書いた内田樹さんの文庫本を読んでいたところで。
その中の第5章『共同体の作法』の話のひとつ『食の禁忌について』を読み、大いにうなってすっかり歩みを止めていたところだったのだ。
これは、是非とも読んでいただきたい。
この本自体、目からうろこというかウ~ムそうか、という内容でいっぱいなので、オススメである。
特に第一章の『男の落とし方』からすでにオモシロすぎる…って、話は脱線したが(笑)

『食の禁忌について』の中で触れている禁忌とは、「肉」に関わる禁忌である。
われわれは、草を食む牛たちの姿を愛で、うまい肉に舌鼓を打ちながらも、その間に何が行われているのかを厳重に生活から締め出し、触れないようにする。
人間が殺される映画の場面には耐えられても、家畜が殺される場面には耐えられない。
これには、じつは人類的な意志の力が働いているのではないか。と。

『家畜が食肉に「変換」される工程については、そこで何が起きているかを、隠蔽するにせよ、神話化するにせよ、「あきらかにしない」という点については人類史的に合意が成立している。それは、それをあきらかにする事がきわめて危険な「副作用」をもたらすことに私たちが無意識のうちに気づいているからである。
その副作用は、「動物を殺した罪は誰が引き受けるのか?」という問いのかたちをとる。』


腑に落ちるとはこのことか、と思った。
誰もが、意識しているにしてもしていないにしても、きっとどこかで持っているのだ。
生きている事と切り離せない、根源的な、ある種の“罪”の意識。
人間は、“罪”と感じる脳を持ってしまった。

だから、有害論者は、畜産を攻撃する。
現実を知る方向ではなく、根拠も浅い刺激的な攻撃論に同調する。
劣悪な環境、可哀想な牛たち、冷酷な牛飼いたち、と非難することは、無意識のどこかに自分も含めた人類への攻撃を含む、気がする。

そして、だから、私たち畜産業界者は、それに激しく反応する。
私たち自身が、無意識のどこかに押さえ込む“罪”のうずきを刺激されるから。

本当にね、悲しくなっちゃう。
こんなに毎日真剣に向き合って、睡眠を割いてお産を監視して介助して、体調管理に気を配って一生懸命やってて、「鬼!ヒトデナシ!」みたいに言われるとね。
だけど、私は、今の畜産を丸ごと擁護するつもりでもない。
火のないところにも煙が立つこともある。けど、これに関しては、極論に導くための“入り口”は、存在する。
だからこそ私たちは、苦しく不愉快な気分になる。

私は酪農家の娘でもないし、特に贔屓目で見るような思い入れがあってこの仕事しているわけじゃない。
どちらかというと、なりゆきで足を突っ込んだ業種だった(笑)
だから、むしろ良かったかなという気もする。

私は、肉牛の肥育があまり好きじゃない。
日本人たちが大喜びして褒め称えるような、「サシ」がたっぷり入った黒毛和牛を育てるには、当たり前だが脂肪のたっぷりついた牛に育てなくてはならない。
牛の健康を維持しつつも脂肪たっぷりに育て上げる、というのが、農家の腕の見せ所ではある。
だけど、そもそも脂肪たっぷりの牛に育て上げる、というのは、完全に人間のエゴに牛を合わせた姿である。
普通に赤身の肉食えよ!!って、言いたくなる(笑)

時折私も記事にするように、乳牛は、乳を出すために人類によって改良された姿である。
それは今でも続いている。
乳をたくさん出す牛が残され、乳をたくさん出す遺伝子の雄牛を種付けして、乳をたくさん出す子牛が生まれるという事によって。
そろそろ、いいんじゃね?って、言いたくなる(笑)

牛を、かわいそうだと思ってますよ、私は。
だけど、それは、牛飼いによって虐待されて病気と薬漬けでかわいそう、なんじゃない。
人類が背負った“業”としての、感情。
牛乳がどれくらい「有害」なのか、わかりません。
本来の人間の食べ物ではないだとか言うけれど。
だけど、たとえば縄文時代まで日本人は米を食べてなかった。

そんな、さまざまな思惑が入り乱れて、なんだかどうにもならない後味の悪いやり合いをすることになってしまうのね。


f0032403_21594325.jpgとーもーかく!

根源的な部分は仕方がないとして。

生産現場と消費現場の離れすぎは、何とかできる部分でしょう?
離れすぎを逆手にとって、現実よりもイメージを利用する、業界やマスコミも悪い!
実際は、草原で草を食む乳牛たちも、母牛の乳に吸い付く子牛も、ごく一部の姿でしかない。
牛乳パックにも、酪農のイメージ映像にも、その絵を使いすぎ。
だから、「実際はこんなんじゃないじゃん!」となるのに。

隠すべきものじゃない。そんな必要ない。
ありのままを見せるだけでいい。
良いイメージにする必要もない。
そう思う。



このブログは、ただのまとんのへっぽこ日記以上の何にもなれないものだけど、せめて訪れたいくらかの人には、ありのままを知ってもらえればいいかな、と思う。

いいところも、悪いところも。
by ushimaton | 2011-02-21 22:28 | ウシ話


気が小さいのに、珍しいものは好き。 道草を喰って、たまに反芻したり。 牛歩ではありますが。


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