牛が死んだ

お産の後で体調を崩した牛の様子を見に行ったら、死んでいた。
どさりと倒れて、首は飼槽の中に入っていた。

ほんの少し前に見た時は、元気はないもののちゃんと立っていたのに。
確かに調子は悪かったが、死を感じさせる前ぶれすら感じる間もなかったので、とてもびっくりした。
二日ほど点滴を打ってもらい、回復しているように見えていたのだけれど。
急性心不全、とのこと。獣医さんの回診の1時間ほど前だった。

本当に死んだ直後だったようで、まだやわらかく、温かく、瞳もきれいだった。

f0032403_22342231.jpg牛の死が初めてなわけじゃない。
そこそこ大きな農場ばかりで仕事してきていたから。頭数の多いところでは、牛の死はすでに日常の範囲にある。びっくりするような死にも何度も会ってきた。

これまでの牛の死は、体調を崩すまで、あるいは死体を見るまで、たくさんいる牛たちの中のどれか一頭という存在だった。
今日死んだニーラは、名前も性格も搾乳の癖もお乳の形もみんなわかる。
「牛の一頭が死んだ」のではなく、「ニーラが死んだ」。

ニーラ、かわいそうに。
ものすごく勝手だと自覚しながらも、やっぱり、かわいそうにと思わずにいられない。
かわいそうなニーラ。こんな体にしたのは、ニンゲンなんだもんね。


牛には色々な種類がいる。
乳を出す牛、肉になる牛、物を運ぶ牛、毛の長い牛。
今、地球上にいるすべてのウシの仲間は、人間が野生の牛を飼い、育て、長い年月をかけて品種改良した結果の姿をしているのだという。
原種のウシは、もう地球には存在していないそうな。

中でも乳牛、とりわけホルスタインは、まさしく改良に改良を重ねた品種。
もともとは自分の子を育てるためにあった乳房は、一日に50リットルもの乳を生産するようになり、立ち上がる時に自分の足で踏んでしまうほどに大きくなり。(個体差はあるけれど)
それだけの牛乳を作り出すためには、一日に数トンもの血液を必要とする。
お産の前後は、体が急激に乳を作り始めるためにエネルギー不足、カルシウム不足となり、気をつけていてもさまざまな弊害が起こってしまうのだ。


日本にいる数百万頭の牛たち。
当たり前だが、その中に寿命いっぱいまで生き、老衰で天寿を全うする牛は、ほとんど存在しない。
だって、経済動物ですもの。
乳をいただき、乳が出なくなれば肉をいただき、乳にも肉にもできないならば、飼い続ける意味がなくなる。
だけど、牛を飼う人々が自分の牛を自らの手で肉にしなくても良いという仕組みができている。
だから、「もう乳牛として飼うのをやめました」という牛は、かわりに肉にしてくれる業者さんにお願いして、連れて行ってもらう。
病気の牛も、業者さんが連れて行ってくれる。
だから牛飼いは、牛を飼って、飼わなくなった牛はトラックに乗せてサヨウナラして、日々を過ごしている。

f0032403_22345588.jpg牛舎を見渡す。
ここにいるすべての牛たちは、ほぼ間違いなく、寿命いっぱいまで生きることはない。
人は、ごくごく当たり前のこととしてそれを知り、そういうものだと思って日々を過ごしている。
考えてみると、ここにいるすべての牛は、(突然の事故でもない限り)自分が必ず人の手で最期を迎えることになるなんて、当たり前だが知らずに生きている。

ただ、それだけのことなんだけど。


ずーーっと昔、まだ子供の頃、家に藤子不二夫のSF短編集があった。
たしか、SFは「少し、不思議な」の略でもあるって書いてあって。
その中に、『ミノタウロスの皿』っていう短編があった。
見知らぬ星に宇宙船が不時着して、星の人に助けられるんだけど、その星で文明を持っているのは、牛にそっくりな顔をした人類。家畜として飼われているのは、地球人と同じ姿の人間。
主人公はその中のかわいい女の子に恋をするんだけど、そこの人類に大切に大切にされている彼女は、お祭りの日の生贄のために育てられている。
その女の子に「生贄になれることは名誉なこと」「おいしそうでしょ?」なんて言わせてしまうあたりが、ブラックでシニカルなのであります。


愛情ってなんなんだろなーなんちゃって。
「よしよし、かわいいね。元気に育てよ!」って面倒見て、病気になったら心配して、大人になってもかわいがって、経済性がなくなったらトラックに載せちゃうんです。
だけど、かわいがっているのは本心なんです。
そういいながら、たとえば治療に莫大なお金がかかるなら、手離します。
牛だけじゃない。
お米だって、人間が改良を重ねた結果の、自然ではありえない姿であり。
野菜だって、毎日声をかけたり水をやったりせっせと大切に育てて、「おいしくなってありがとう」とか言いながら食べちゃうんです。

人間、カスミを食べても生きていけないから。


f0032403_22355898.jpg愛情だのかわいそうだの、変に考えたりしないで、あったりまえな事として虫を食べる鳥、鳥を食べる獣、世の中はほんとうはそういうものなんだと思う。
でも、どういうわけか謎の感情をニンゲンは手に入れた訳で。

矛盾しててもいいと思いまっす。
勝手に矛盾して、勝手にその矛盾にわびて、それしかないっしょ。


だから、勝手だけど、ごめんね、ニーラ。
by ushimaton | 2011-01-26 22:42 | まきばにっき


気が小さいのに、珍しいものは好き。 道草を喰って、たまに反芻したり。 牛歩ではありますが。


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