神様って何?

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メキシコの北部、高低差数千mと言われる大峡谷の谷底の、小さな村にいた時。
世界各国からの個人旅行者はぱらぱらと訪れる場所ではあったのだが、日本人には会いそうにないその地の安宿に、なんとなく日本人っぽくない日本人のお兄さんが一人いた。
もう何年もアメリカやメキシコに住んでいるY君。彼は、あるとても高価なギターを作る職人のたった一人の愛弟子で、その師匠と共に大きなBMWのオフロードバイクに乗って旅行に来たところだった。

一本百万円を越すような高級ギターを作る、世界的にも有名なそのギター職人は、当時メキシコに住んでいた、ユダヤ人の男性だった。
不思議な色の瞳を持っていて、お酒が大好きで、敬虔なユダヤ教徒だったその人は、ペットボトルの水を口に含む時にも、いつも何か祈りの言葉をつぶやいていた。
さしてする事も見るものも多くないその谷底の小さな村で、地元のテキーラの仲間であるレチュギアという強いお酒を飲みながら、ダラダラまったりと休暇を楽しむその二人組と私は妙に意気投合して、谷底の川を眺めたり中庭のハチドリを眺めたり星を眺めたりしながら、ゆっくりといろいろな話をした。

ギター職人は、私が初めて出会ってちゃんと会話をした、ユダヤ教徒だった。
とても頭がよく、いつも自信にあふれていて、気さくで親切で人懐こいおじさん。
土着の宗教と、それを押しのけて無理やり広まったカトリックのごった煮状態のメキシコという国で、いい加減な仏教と神道をなんとなく持ってるような持ってないような私やY君とユダヤ教の彼が、いろいろな宗教の話をした。
お互いにお互いの宗教についてはよく知らない同士、話すごとにお互い驚いたり感心したりの積み重ね。
ケンカ腰になったり頭から否定することも全くなかった。
ギター師匠は私たちの知っている範囲の仏教の基本的な考え方に大いに興味を示し、優れた哲学だし自分たちの教えにも共通すると言っていた。
ユダヤの教えも、とても面白かった。

そんな会話の中で、彼が
「もともとキリスト教もイスラム教もユダヤ教から始まったものなんだよ。」
と言った。
とても基本的なことだが、私はそのときに初めてそれを知った。
だから、ユダヤ教とキリスト教、イスラム教にはよく似た教えや考え方が沢山あるし、聖地もかぶっているのか。
ユダヤ教の聖書である旧約聖書は、キリスト教でもイスラム教でも聖書である。

…なんて、そんなことを思い出した。

とみちゃんが図書館から借りてきてくれた、森達也の『神さまってなに?』を読みながら。

何しろまとんのツボである森達也。
これまでも『いのちの食べかた』『職業欄はエスパー』『A』などなど、ブログにも何度も登場した。
今回のこの本は、『いのちの食べかた』などのシリーズである『よりみちパン!セ』とは別のシリーズだが、ちょっとそれと似ている、中学生以上、大人までを対象とした、河出書房新社の『14歳の世渡り術』というシリーズの一冊だった。
『よりみちパン!セ』よりも文章は難しく書かれているように感じたなー。
でも、中学生でもこのくらいは読めるものなんだろうな。
大人が読んでも読み応えはしっかり。


『神さまってなに?』は、人類あるところ必ずと言っていいほど存在する“宗教”と言うものを、「そもそも宗教ってどんなモンで、神様ってほんとにいるんじゃろうか?」と、おもに“世界宗教”とされている(信者が地域限定ではなく世界中にいる)仏教・キリスト教・イスラム教の話を中心にして、わかりやすく解説した“入門書”のような本。

単に「宗教ってなになに?」みたいな学術的好奇心のための本ではない。
大昔から繰り返される、人間同士の争い。
ひとつの国の内紛から、世界中を巻き込んだ大戦まで、そのほとんどに宗教というものが絡んでいるという事実(日本も例外ではない)と、そんなに重要なキーワードでありながら、わかっているようでよくわからないということ。
わからないまま憎んだり批判したり、のめりこんだり、自分とは無関係だと思っていたり。
だから、知ってみるのは、考えてみるのは、無駄なことじゃない、っていうか大切なこと。
そういう気持ちの詰まった本だった。

森達也は、もともとテレビでドキュメンタリー番組を作るディレクターだった。
オウム真理教が地下鉄サリン事件などを起こして日本中がヒステリックになっていたあの頃、そこらじゅうのテレビ局はオウム一色になっていた。
森さんも、オウムを題材にしたドキュメンタリーを作った。
ただ、森さんが目をつけたのは、「あんなに恐ろしいことをしたオウム真理教の信者なのに、一人一人と話すと決して凶悪でも残虐でもない、気のいい普通の人間の集まりだ」ということだった。
だからと言ってオウムを支持するとかいうのでは全然なく、「こんなに普通の気のいい人間たちなのに、なぜあんなことが起こるのか?」ということを考えることこそが大切だ、という視点のものだった。
だが、そのドキュメンタリーを作ろうとした、ということで、「オウム寄りの報道になる」とみなされて彼は職を失い、フリーになった。
(以前記事にも書いたが、そのときのドキュメンタリー『A』を観たし読んだが、全然“危険なオウム寄りの作品”なんかではなかった。ていうかマジお勧めよ、『A』。)

その頃から、考えていたのだろうと思う。
宗教ってなんだろう。
宗教が絡んだときの人間の集団は、どうしてこんなに暴走するんだろう。
そして、神様も宗教もよくわかっていないのに、わからぬままにヒステリックに反発する心理ってなんだろう。
神様って何なんだろう。

わからないのに、否定するのっておかしくない?
わからないのに肯定するのがおかしいのと同じように。

そんなふうにして、神様と、神様のことを話した人々のことをわかりやすくまとめた、そんな本。


ブッダの生涯、キリストの生涯、ムハンマドの生涯。
宗教的な飾りをうんと排除して、彼らの人生を簡単に紹介したそれぞれの章で、それぞれの生きていた世界、考えたこと、たどった道を読んでいくと、なんだかしみじみと思う。
ありきたりな言い方で悪いのだが、彼らは、本当に、とっても、「いい人」たちだったんだよ、絶対。
彼らに心酔して従う人々がたくさん現れたという理由に、実はそれってけっこう大事な要素だったんと違うかなあ。
彼らのうち誰一人として、「自分を敬え」と説いた人はいない。逆に、自分を特別な存在として崇められるのを嫌がった人ばかりだ。
誰一人として、殺しあうことを良しと言った人はない。

それなのに、自分の名を掲げて殺しあう今の(これまでのたくさんの)人々を見たら、彼らはどう思うのだろう。

そんな色々な事を考えさせてくれる本だった。
いつか自分で買おうかな。


トルコに行ったときは、イスラム教徒であるトルコ人のおっちゃんたちと、やっぱり宗教の話になった。
だけど、知らない宗教の話を珍しがりはするけど、決して悪くは言わなかったし否定もしない。
少なくとも、悪く言うような人と私は会わなかった。そもそも毎日5回お祈りする人ってほとんどいなかった(^^;)

なんとなく「イスラム教徒は危険」みたいなイメージを作りつつある現在だけど、そのイメージを丸呑みしないで欲しいと思う。
モスクの中には自由に入れたし、中は本当に安心できて落ち着く空間だった。人々は穏やかで、たくさんの親切にもあった。
キリスト教国で、教会の中がとても落ち着く場所だったのと同じように。


14歳以上のオトナのみなさま、興味があれば、宗教とひとつの「視点」の入門書としてぜひどうぞ♪
by ushimaton | 2009-10-14 23:00 | おすすめ!


気が小さいのに、珍しいものは好き。 道草を喰って、たまに反芻したり。 牛歩ではありますが。


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